女性主人公 犯罪を起こす 作品を紹介

梨花にとってお金とは

ただ自分が満たされるものとして

光太との関係を続けるため、それに執着するように梨花の着服は加速していきました。仕事ぶりは以前と変わらぬほど真面目にこなしていく中で、顧客から確実に金銭を貪っていきます。その姿に何処か狂気を感じなくもなかった、不倫相手のためにここまでするのかと思うほどに熱心に偽造する姿に狂気を感じる。こうした作業は無論自宅で行っている、丁度この頃は夫が単身赴任で上海に旅立っていたこともあり、光太との関係を維持するために必死だった部分もあるでしょう。その頃は確かにそうでしたが、筆者は梨花がお金を着服していく姿を見て感じたのは、彼女自身に『罪悪感』と呼ばれるものが最初からあったのか、という一点だ。

原作や映画ではそうした諸作業にも躊躇いを見せる場面こそ見られたものの、あるきっかけからタガが外れたというには思い切りが良すぎるのではないかと思う。何しろ一度に着服する金額が100万単位だ、中には認知症を患っている方などもいる。偽造文書を作り上げることにも慣れていき、自宅ではやはり着服金で買ったパソコンやプリンターを駆使して作業をしている、なんとも手慣れたものだ。

この頃から光太の様子にも段々と変化が見え始めていくものの、自分のしていることをやめようとしない時点で彼女が何かおかしいと感じるでしょう。それもそのはずだ、何せ彼女は自分が『間違ったことをしているとは思っていない』と初志貫徹とばかりに強く信じていたからだ。

学生時代の出来事

梨花は学生時代、敬虔なカトリック系の女子学校に在学していた。『汝の敵を愛せよ』、そんな格言が存在するように他者の幸せを喜び、自分自身の幸せのように感じることにこそ人としての尊厳がかいま見えるという戒律がある。彼女が当時在学していた頃に、海外の貧しい子どもたちに向けた募金活動が学校全体で行われていました。最初は皆が報われない子どもたちのために少しでも助力できるようにと募金活動に熱心になり、梨花もそんな1人でした。ただ彼女の場合は自分おかげで誰かが救われたんだと、そう自覚するようになってから人一倍に執着するようになる。

季節が変わり、誰もが募金に興味を抱かなくなっていく中で1人続けていこうとする梨花。そんな彼女が取った行動は、父親の財布からお金を盗んでの募金、それも5万円もだ。日本でも5万円は一般人にすれば十分高いほうだ、ただ海外の国々ではレートなどのその時の相場にも左右されますが、下手をすればその土地の平均月収並みの額になったりもします。梨花としてはいい事をしたと思っているでしょうが、学校側にすればそんな大金を何処から持ち出してきたのかという事のほうが問題になる。

キリスト教の教えとはいえ、子どもたちのための募金でささやかなものが大口寄付が発生したために募金活動は中止になってしまう。当然納得のいかない梨花、それこそ『自分は正しいことをしているのにどうして否定されなければならないのか』という一点に集約されます。

彼女の原点はここから

こうした学生時代の経験から、彼女にとって目の前で困っている人を助けるのは当然だとする考えが基礎として成り立った。ただそれも卒業してからは鳴りを潜めるようになり、結婚して家庭に入った時には全く片鱗を見せていない。そんな彼女の秘められた衝動を覚醒させてしまったのが、勤め先の銀行での営業職によるのだ。普通に仕事をしている分には何も問題はなく、それこそ上司から仕事ぶりを褒められていたほど。

パートで入社してから契約社員にまでなったが、梨花の目の前に現れたのが取引先の孫である光太だったのです。言ってしまえば光太が彼女に興味を持ったこと、それに対してアプローチをしたことによって隠された本質的な部分を目覚めさせてしまったのだ。言ってしまえばどちらにしても不運だったと言えるのです。光太にしたら羽振りの良い、年上のお姉さん的に見ていたものの、それ以上に自分が何も出来ないということに苛立ちを隠せなかったのもあったのだろう。

例え女を作ってバレても良い、そんな態度で接せられれば離れることも出来なくなる、蔦のように絡みつく梨花の存在は光太を苦しませていった。買いたいものを買って、欲しいものを与えてくれる、ヒモとしての生活に充足することができなかったという点ではまだ良かったのかもしれないが。

バレはしないと思っていた

ただここまで派手なことをしてバレるわけがない、ということは全く無かった。原作では終盤まで気づかれることなかったが偽造を続けていかなくてはならず、映画では不審な記録を見つけた先輩事務員の調査により、内々の審問会で全ての事情が白日の下に晒されてしまうのです。