女性主人公 犯罪を起こす 作品を紹介

梨花と男たち

男との関係に溺れるというよりは

原作と映画では大分設定が異なるものの、俯瞰的に物語を見てみれば大きな違いというものは原作と映画では梨花という主人公の背景を詳しく表現しているかだ。原作では必要な要素とはいえ、映画という決められた時間の長さでは割愛されてしまってもしょうがない。ですがそんな梨花の詳細な幼少時代を紹介しているといった内容は映画にも用意されていますが、必ずしもそれが必要とは言い切れません。今回は劇場作品の内容に焦点を当てて話をしていきますが、梨花のしている犯罪衝動というものが弱すぎるのではないか、という意見が見られた。何をどうして弱い、と判断しているかは少し分かりかねるが、その意見を抽出してみる。

かいつまんで言えば、

『男にのめり込むにしてはお金の使い方があまり派手ではない』

というものだ。

果たしてそうだろうか? そもそも見たことも使ったこともない大金を目の前にして、その使いみちを一気に決められる『一般人』がいるという事のほうが個人的には異常だと思われる。後々梨花は銀行から1億という金額を横領することになる、しかもこれは一気にではなく地道にお金を着服したことによって成り立ってしまった結果と言える。

ですが今作の梨花が着服していくお金の流れは、横領としては実によく見かけられる事件と酷似している。そしてその動機とも言える行動原理には、作者が筋立てた『お金でしか買うことの出来ない恋愛の形』という点にも繋がるように感じられた。

二人の男性の間で

梨花の良いところとしては、職場で同僚との不和で悩まされているという問題はないのがまだいい点でしょう。ここにもしそうしたストレスが加われば、また別の問題に発展してしまうからだ。夫と別段問題を抱えているわけでもないのだが、あるきっかけによって心の距離感を図りかねる様になり、自分のしたことに葛藤を感じるまでになってしまう。自身が働いて得た給与でプレゼントとして渡した時計を気に入ってもらえず、あまつさえペアで買ったと言ったのに後日夫は出張先で年齢に即した高価なブランド時計を買ってきてしまったのだ。

これは軽く梨花の、社会人としての心を挫かれる瞬間と言っても良い、働いて買ったものを無下にされる行為にやるせない気持ちになっていく梨花の心を満たすように、彼女の拠り所となっていったのが光太だった。仕事が忙しい夫のすきを狙って逢瀬を重ねるものの、これまで意識してこなかった服や化粧道具などにお金を費やしていくようになります。コートに口紅とそれらを始めとして梨花は妻ではなく女性としての意識を取り戻していくように見えた。

ただ何か違和感があると感じるのは、作者がどういう心理でこの作品を作ったかという点に焦点を当てると分かるかもしれません。

お金が常に絡みあう

横領をテーマにしているせいもあって、彼女の周囲には常に『お金』という二文字が常に飛び交っています。仕事柄というのもあるが、光太という年下の不倫相手と邂逅するためにも必要なのは、結局はお金の力に頼るしかなかったという梨花の自信の無さが現れているようにも見える。お金を介してでしか愛せない歪な恋愛、というのも光太との関係を見ていけばよく分かる。

段々と崩壊する間柄

最初こそ順調に想いを繋いでいた梨花と光太だったが、光太が大学の学費を払えないという事情を知ってからというもの、それらの都合をつけるためにお金を着服していきます。端として続くように、梨花は次々とお金を着服していき、これまでしてこなかった豪遊を満喫した。ある時は300万円という額を3泊4日の旅行でその半分を使い切るまでになった。

当然、羽振りの良い梨花を見て光太も段々と態度が横柄になっていき、最初こそ借りたお金を封筒に入れて返却していたが、段々と裸で渡すようになり、額も減っていきます。そうした態度の変化はあっても、梨花は意識せずに関係を続けていった。この時には既に二人の関係は不倫相手というよりは、梨花から見た光太は『ペット』のように見ていたのかもしれません。それを分かっていたのかもしれません、光太は次第に梨花から離れたいと思うようになり、別の女を作って自由にしてくれと嘆願するのだ。原作では、『お願い、ここから出して』と涙目になりながら訴えたという。

自立した人間ではない、人間に飼われた家畜のように生活するというヒモという立場に光太は耐え切れなくなったのでしょう。その言葉を聞いた梨花は嘆き悲しむこともなく、あっさりと別れを承諾するのだった。

夫の関係は

光太との関係が進展するから夫との仲は険悪になっていく、普通はこう考えられる。けれど梨花は夫との距離感があるのを意識している一方で、夫の方は彼女に対して言葉遣いや態度などは厳しくとも、終始彼女を愛しているのだ。これが今作における異質な関係といえる、年下との恋愛に燃えているように見えながら実は冷めていたとも分析できる。

梨花にとって光太は都合の良い、お金で繋ぎとめるセックスフレンド、という見方が一番正しいのかもしれません。夫とも最終的に離婚という展開はなく、彼女自身が姿をくらますに留まっている。